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押し開けて、そこに立つ黒衣を見て思わず身を硬くする。ファウストと並ぶような長身に全身黒ずくめの男は椅子に座る事もなく立っていて、ハムレットを見ると僅かに眉を寄せた。
「久しいな、ハムレット殿」
「クラウル殿」
「その節は世話になった。あの時の大恩、少しは返せるといいんだがな」
厳しい表情ではあるものの空気を崩したクラウルは、手にした小さな紙片へと目を落とした。
「チェルルの裁判について、知り合いから少し話を仕入れられた。どうやら終戦くらいから突然騒ぎ立てる宮中関係者がいて、その代表が訴えたそうだ。重罪人を帝国に入れる事は新たなテロの可能性に繋がる。その人物が本当に今後帝国に牙を剥かないか、信用できないと」
「ギネスか」
クラウルは大人しく頷いた。
「彼を知る身としては馬鹿げた話だが、高圧的に、そして声高に言われると不安も煽られる。そして一般的には危険人物であることは否めない。それで、裁判にてそこを判断する事となったそうだ」
「つまり?」
「チェルルが今後テロ行為を行う可能性が低いとなれば、自由に動ける可能性が高い。だが本人の口頭では無理だ。もっとはっきりとした事実を述べる必要がある。その為にシウスが提出書類を作っている。勿論、彼を助ける方向にだ」
見えてきた。チェルル個人の意志でテロを行っていたわけではないのだし、現状その必要はもうなくなったのだ。
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