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だがクラウルは穏やかな空気を出したままだ。それだけで、悪いものじゃないと思える。
「取り調べにも大人しく従い、罪状も事の経緯から丁寧に自分で話している。大人しく穏やかで、素直らしい。裁判所の取調官も拍子抜けらしくてな、待遇も心証もいい」
「そう、か」
「大事だぞ。もしかしたら付添人がいる前提で、裁判前に会えるかもしれない」
「本当に!」
思わず身を乗り出すように声を上げると、クラウルはくくっと笑う。そして、穏やかに頷いた。
「決まりではないし、格子を挟んでの対面になるだろうが。それと同時に、裁判が早まりそうだ」
「分かった」
「筆頭裁判官はユリシーズという若い裁判官だが、誠実な男だ。頑固とも言われている。だが、この男から良い結果を引き出せれば今後も安心だ。買収などには絶対に応じない男でもあるからな」
「分かった、とりあえず引き続き頑張れって事だね」
「そういうことだ。こちらも出来うる限りはする」
「有り難う」
素直にハムレットから出た言葉。だがそれに、クラウルの方は驚いた顔をする。ちょっとムッとすると、彼は苦笑して謝罪した。
「ヴィンの事で、他人を躊躇いもなく殺した頃を思うと随分変わったと思ったんだ。悪意じゃない」
「……そう、かもね」
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