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やっぱり、絶対に離しがたい。彼がいないと、世界は全部がモノクロに見える。つまらなくて、誰かの幸せを羨むなんてまっぴらだ。
「そろそろ、時間です」
遠慮がちに声がかけられて、それを「うざい」と思ってしまった。それでもハムレットがチェルルの印象を落としてはいけない。手を離し、後ろ髪を引かれながらも牢を出た。
「兄上」
「ランバート」
牢を出て少しで、心配そうにランバートが待っていた。その瞳は気遣わしげだ。
昔なら、愛しい弟のこんな珍しい表情に悶え苦しんでとりあえず抱きしめていた。けれど今は、そんな事思わない。腕の中にまだ感じる温もりが愛しくて、離さなければならない今を悔いている。
「大丈夫か、兄上」
「うん……ダメかも」
動けないままのハムレットに歩み寄ったランバートが、そっと肩を貸してくれる。こんなレアケース、絶対悶えるはずなのに。
「情けない顔するなよ、兄上。大丈夫、絶対に助け出すから」
「うん……ごめん、なんか……どうしようもなくて」
「……兄上も、変わったんだな」
そうかもしれない。基本は変わらないと思っていたのに、今はこんなに弱い。こんなに、どうしようもない。
「ランバート、ギュッとして慰めてもいいよ」
「なんだよ、その言い方。弱ってるだろうから、心配してきたのに」
「……猫くん」
「……助けるったら」
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