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★ハムレット
目が覚める事が、こんなに待ち遠しく安心した事はない。
子供の頃、発作で何度も危なかった。でもその時は苦しいばかりで、目なんて覚めなくてもいいと思っていた。
でも今は、早くチェルルに会いたい。あの子を一人残してなんて、死んでいられない。
意識や感覚が戻り始めて、手を握る体温を感じる。体に感じる痛みや怠さ、いつもより高い体温が嬉しいなんて、初めてかもしれない。
「先生!」
黒くて大きめの瞳が濡れている。疲れた様子で、目の下に隈ができている。どのくらい寝ていたのか、チェルルは少しやつれてすら見えた。
「先生、しっかり! 俺の事分かる? 先生!」
「う、ん。猫くん、おはよう」
掠れた声で言うと、背中が痛んで笑みが引きつる。でも、だからこそ生きている実感がある。
「無理しないで! エリオット先生!!」
バタバタしてエリオットを呼ぶチェルルは、細々動いている。側にいて欲しいんだけれど。
程なくしてエリオットが来て、状態の説明をしてくれた。どうやら片側の腎臓に重篤な裂傷があったらしいが、迅速な治療と輸血で切除には至らなかったらしい。エリオットの腕前は信用しているから、あまり心配していない。
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