ただ、何でもない日常を(ハムレット)

20/20
353人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
「え?」  少し驚いて見ていると、黒い瞳が強情な光を宿してそこにあった。 「俺が先生を守る。絶対に誰にも傷つけさせない。俺、先生がいないと死んじゃうんだよ」 「猫くん……」 「いいでしょ? 俺、ただの家猫じゃないんだから。先生を守ったり、できるんだから」  ギュッと握られた手が思いの強さを物語っている。  瞳を閉じて、ハムレットは頷いた。 「僕も同じだよ。君を失ったら僕は何を糧に生きていけばいいのか、きっと分からない。ぽっかり穴が開いて、動けなくなる。だから、これはお願い。無理はさせないからね」 「うん」  手を伸ばしたら、側に擦り寄ってくる。黒い髪を撫でて思うのは、早く家に戻りたいという何でもない日常を願う気持ちだった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!