353人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
ほんの僅かな逢瀬でも(ハムレット)
クラウルの予想は見事に当たった。裁判は早まり、その一日前の夜にチェルルとの面会が叶った。警備の近衛府と、裁判所の役人が同行する事になったけれど、それでも彼に会えるのは嬉しい。
地下牢はとても無機質で、少し肌寒い。その中でも手前に、彼は簡易ベッドに腰を下ろしていて、ハムレットを見ると驚いた顔で駆け寄って来た。
「先生! どうして……」
戸惑いながらも嬉しそうにするチェルルの目には薄ら涙がある。それでも健気に笑う姿が、酷く胸に痛くて苦しい。邪魔な格子から腕を差し入れて抱きしめたハムレットは、こみ上げるような衝動にどうにもならず涙が出そうになった。
「先生、力強い!」
「猫くん……」
「うわぁ! 先生泣かないでよ」
「気のせいだよ」
終戦を聞いて、会えると思っていた。何かしらあるのは覚悟していたけれど、こんなに突然、一目会うこともできないまま離されるなんて思っていなかった。抱きしめて、無事を確認して、甘やかす一夜くらいあると思っていたのだ。
「チェルル……」
耳元で囁いて、手や体で体温を感じて。
そうするうちに背に控えめな手が触れた。
「大丈夫、絶対に戻るから。信じて、待っててよ」
「うん」
最初のコメントを投稿しよう!