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塾の冬季講習が終わると22時を回る。明日はクリスマスイヴだ。駅前の店からは、クリスマスソングが流れ、イルミネーションが光を放っている。
今夜は風が強い。夜のビル沿いの道には凍るようなビル風が吹く。冷たくきつくなるビル風を避けて、茜は地下に降りた。いつもはもう少し先で降りるから、少し遠回りになる。夜の東栄ビル地下に降りるのは初めてだった。
東栄ビル辺りの地下街には、ショップもないので人通りは少ない。店舗から漏れるクリスマスソングも聞こえない。
『クリスマスなんて関係ない』と言われたことを思い出すと、それも心地よかった。参加できない祭に浮かれる気分にはならない。
足早に歩く地下街には、自分のローファーの靴音が響いていた。
「だからそこ違うって!」
地下通路に大きな声が反響して、茜の靴音を消した。
「設計図通りだろうが!」
「折った時に、カード状態になるようにするんだから!そんなカタチになったらはみ出すでしょ!」
怒鳴り合うような声に、怖いと思いながらも茜は好奇心を止められなかった。
『好奇心は猫をも殺す』
イギリスの諺を思い出しはしたものの、靴音を抑えて声の方に向かっていた。
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