71人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
『ゴミ拾いは終わったのか?』
受話器の向こう。遠く離れた地からくぐもった月島の声がする。遅れてかみ殺す笑い声も。
コバンザメ月島こと月島 湊からの定期連絡だ。
毎夜、月島と電話をする。月島転勤後のルーティンだ。
一応会社の経費なので仕事を装いながら会話する。それぐらいはまぁ、ねぇ…と、渋々、部長含めセンター全員が目を瞑ってくれているのは、ここが女子離職率NO.1、男子離職率もなかなかの悪成績の部署だからだろう。
女性社員は私と部長の藤崎のみ、美味しいはずなのにさほど喜べない逆ハーレム状態の職場。
毎日ここで自動車事故の損害確認、示談交渉、相談、保険金の支払い、怪我があれば病院への対応などを行う。
自動車事故は火災や傷害保険とは異なり過失割合があるため、互いの主張がぶつかる場面も多い。そのため、メインはその調整役。その他にはお悩み相談などのメンタルケアも行う。
人のプライベートの、それも弱っている部分、言い方は悪いがぬかるみに片足を突っ込み、それでも退路は確保しつつ話を進める。タフか、いい加減じゃないとなかなか続かない。
対外ストレスが大きい仕事な分、センター内は老いも若きもスクラムを組んで共に難局を乗り切る。切磋琢磨というよりはどちらかというと傷の舐め合いに近い環境に、普通なら比較材料として事あるごとに引き合いに出されるはずの同期である月島とはライバルにならなかった。
「で、ゴミ拾いって何?」
名乗ることもなく(当然私しか残っていないと思ったのだろうが)、切り出された質問に質問で返す。
『田神がさ、』
「田神?絶賛合コン中の?」
『言い方!小姑か!!』
月島は笑いながら『誘って貰えなくてひがんでんのかよ』と、的外れなことを言う。
最初のコメントを投稿しよう!