第1章

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「ううぅ、なんでだよ、かおるぅぅ。」 トイレの中からいつもの木下さんの独り言が聞こえる。 「木下さん!そろそろ開けてくれないとこっちから鍵開けちゃいますよ!木下さん!」 扉をノックしながら話しかける。 木下さんは独り言を喋ってる間は1人で帰れる余地がまだあるのだそう。 「俊輔ぇ、お前なんかにわかるもんか、俺の気持ちなんかぁ!」 トイレの中から言われても何も響かないのである。 「わかんないですよ。だから早く出て来てください。話、まだ途中だったでしょう。」 マスターは僕らのやり取りに笑みを浮かべている。 このバーで働き始めて2週間が経とうとしていた。 木下さんは毎日のようにやってくる。 仕事が休みの前日は決まってこうして酔いつぶれるのだ。
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