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「あなたの言う通り、私に起こっていることは確かに理不尽かもしれませんけど。でも、本当に感謝しているんです。私ずっと、どうすれば役に立てるだろうって思っていたから」  白無垢がこちらに顔を向ける。閉ざされた目には何も映っていないはずだ。それなのに不思議と、心の底を見透かされるような感覚がした。 「両親を亡くした私を引き取ってくれた叔父夫婦が、私を疎ましく思ってることは知っていました。それでも、私を優しく育ててくれました。そんな叔父さんたちに何か返してあげたかったんです。白無垢って、とっても高く売れるんでしょう? 多分、私に使ってくれた分のお金は、取り戻せましたよね」  それが凄く、嬉しいんです。  言いながら、白無垢が自身の服の袖を捲り上げた。白色病特有の真っ白な細腕が晒される。 「こんなに綺麗な身体になって、お世話になった人に恩返しも出来て、死んだ後も私の身体が役に立つんでしょう? 私、幸せだなとすら思うんです」  そして白無垢は笑みを深めた。本当に、……本当に、幸せそうに。  死にたいのか、と尋ねる声は僅かに震えてしまった。それに気付いているのかいないのか、白無垢は首を横に振り、そういう訳では無いと言う。  ただ、恩返し出来ることが、死後も人の役に立てることが、嬉しいだけだと。死ぬことはきっと怖いが、それよりもずっと、幸福を感じるのだと。     
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