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 少女の真の美しさに気付いてから、出来る限りの時間を彼女の為に使うようになった。  毎日の掃除や食事の時間以外にも、空いた時間には白い部屋に足を運んで少女の話し相手になる。だからと言って急に面白い話が思いつくわけもなく、相変わらず天気の話やら、ひねり出して上司の話くらいしか出来ないが、それでも彼女は嬉しそうに話を聞いてくれた。  彼女と共にあることで、楽しいだとか、嬉しいだとか、そういう気持ちを思い出す。胸の内が暖かくなるようなこの感覚は、幸福と称されるものだ。  閉塞感が迫ってくるような白い部屋も、彼女がいるだけで、宝石箱のようにすら思えた。彼女と出会う前と後で、別の人物に生まれ変わったと言ってもいいくらい、心が満たされていた。  こんなにも幸せなのは、きっと初めてだ。  ああ、いつまでもこの時間が続けばいいのに。  ……とは、思えなかったけれど。  毛先からじんわりと白に染まり始めている少女の黒髪を見て、そう思う。  彼女は必ずここを出ていく。その明確な証を目の当たりにしてまで夢を見ていられるほど、幼くは在れなかった。  そして、彼女の髪が僅かな黒を残すだけになった頃、上司がひょっこりと現れて告げたのだ。  嫁入り先が決まったぞ、と。
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