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 その言葉にしっかりと頷いて返し、外した目隠しを元の通りに戻す。大人しく目隠しを付けた少女は、そのままベッドに潜り込んだ。そんな彼女と、おやすみと挨拶を交わし合って、自分も自室に戻る。  目を覚ましたのはいつもの時間で、厨房に向かうと上司がコーヒーを飲んでいるところだった。  上司がいる、ということは、もうきっと朝早い内に出荷を終えたのだろう。その考えに違わず、上司はこちらに目を向けると、通常業務に戻れとだけ言った。返事をして、頭を白無垢不在の業務仕様に切り替える。  簡素な朝食を終え、掃除道具を持って白い部屋に向かう。部屋の前で服装を確認し、扉を開ければ、当然ながらそこには誰も居なかった。僅かに乱れたシーツが、そこに今朝まで彼女が居たことを告げるのみだ。その僅かな痕跡も、これから行う掃除で跡形もなく消え去ることになる。  一歩踏み入ると、宝石箱のよう、とすら思った部屋は、見事なくらい元通りで、窓のない白一色の閉塞感に、息が詰まる思いがした。  もう二度とあの彼女に出会えることはなく、また単調な日々が続いていくのだろう。  それを理解して、けれど、自分の心は暗く沈むことはなかった。  目を瞑れば、少女の赤い瞳を鮮やかに思い出すことが出来た。あの赤は白い目隠しに覆われ、彼女が死ぬその時まで、明かされることはない。  自分と彼女だけが知っているのだ、彼女の白が完全な無垢ではないことを。     
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