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 その日の朝、暫くぶりに顔を見せた上司は、開口一番に、花嫁修業が始まるぞ、と言った。それは上司独特の言い回しで、白無垢がやって来るということだった。  白無垢自体は、昨夜の内に部屋に入れられたという。上司の話を聞きながら、頭の中を白無垢不在時の業務から白無垢在住時の業務に切り替え、やるべきことを組み立てる。締めに上司が、丁重に、と言ったのに頷いて、白い部屋に向かった。  真っ白な扉の前に立ち、服装を確認してからノックをする。大抵は返事などないため、そのままノブに手を掛けたのだが、予想に反し、扉の向こうから軽やかな声が返ってきた。  ノブを回す手が思わず止まる。気のせい、だろうか。今度はたっぷりの間を置いて、そっと扉を開けた。  調度品の少ない真白い部屋の中では、白い鎖と足枷で捕らわれた少女がひとり、隅のベッドに座ってこちらへと顔を向けていた。  白無垢の両の目は白い拘束具で塞がれているから、恐らく先ほどのノックに反応してこちらを向いたのだろう。     
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