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それを見届けるよりも早く、幾人かのクラスメイトが弥生の方へと駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか!? 弥生くん!!」
「やっぱり、足の骨が折れてる! すぐ治すから、もう少しの辛抱だからねっ!」
「そこまで痛くないから平気だぞ!」
結乃と専攻異能が[治癒]であるユズリハが焦ったようにそう話しかけてきたが、弥生の中で骨折は軽傷だというのが常識だ。なぜこんなにも焦っているのか、弥生には分からなかった。
その様子を見て弥生が話せる精神状態であると判断した龍真が弥生に近づいた。
「弥生の力量なら有鷹先生相手でも互角どころか、勝つことも出来たはずだが……なんで弱いフリをしたんだ?」
「そうよ。あんな奴ぶちのめしてしまいなさいよね」
龍真と一緒に話しかけてきた玲香も多少の心配はしているようで、治療を受けている足を眺めていた。
今の弥生の性格では面倒だったからというのは少々違和感がある。そう思った弥生は少し考えてから口を開いた。
「うーん。まぁ、数ヶ月なら我慢すればいいかなって。ここで下手に倒して変に恨み買うと他の人に矛先が向くかもしれないだろ」
龍真はその言葉に瞠目した。
今までの龍真の仕事は相手をただ無力化することが多く、その後の人間関係など気にしたことがなかった。何せ、相手は大概が犯罪者だ。被害が拡大する前に無力化して捕獲、というのは当たり前のことだった。
「三奈月さん、申し訳ございません。わたくしの[制裁]では威力が強すぎて、有鷹教諭相手ですと、その……やりすぎてしまう可能性がありましたので、手助けになれず」
「あぁいや、オレは大丈夫! 体は強いのよ!」
申し訳なさそうに声をかけてきたアルフィーナに弥生が力こぶを見せると、本当に平気そうな様子に他の者は安堵の表情を見せた。
(にしてもアイツ、邪魔だなぁ。龍真クンとの訓練が出来ないし、いちいち相手にするのも面倒臭いし)
まあ暫くは様子を見るかと弥生は考えて、思考を切り替えた。
折れてあらぬ方向に曲がっていた足は元通りになっていた。弥生は数回足をぶらぶらと振り、しっかりと動くことを確認する。
「ユズリハさんだっけ! サンキュ!」
弥生が笑いかけるとユズリハは安心したように息を吐き、そして真剣な顔つきへと変わった。
「三奈月君、本当に無理はしてない?」
「どうしてそんなこと聞くんだ?」
心底不思議そうな弥生に、ユズリハは信じられない思いだった。
「だって足の骨、砕けてたよ? そんなの痛くないはずがないよ。それなのにこれからも有鷹先生に目をつけられたままでいいって……大丈夫なの?」
「「……骨って折れたら痛いのか?」」
台詞が被ったのは龍真だ。弥生と龍真はお互いに目を合わせて首を傾げた。
「……は?」
周りの人間が唖然としている中、玲香がようやく声を発した。
そうか、足の骨が砕けると痛いのか。
弥生はここに来て初めて、通常の人間は骨が折れると痛いのだということを知った。
(よく骨を折っただけでこの世の終わりみたいに叫び声をあげる人を見てなんの意味があるんだろって思ってたけど……あれって実は痛かったんだ?)
齢15にして新事実発覚であった。
「し、信じらんない。どうしてそこに疑問を持つ人間が、この場に二人もいるのよ……!」
ありえないというふうに玲香が首を振ったが、さもありなん。その二人は総じて普通とはとても言い難いような人生を送ってきた人間だ。
「まぁともかくそこまで痛くないんだし、今後も大丈夫だろ!」
隣で冷や汗をダラダラと流している龍真を横目に笑顔で無理やり押し切った弥生は、次からはもっと痛そうな演技をするべきかと思ったが、今更かと考え直し現状維持で行こうと決めた。
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