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「なんかめちゃくちゃでかい笑い声が聞こえたんだが何があったんだ?」
弥生の笑い声は相当大きかったようで、部屋を出て辺りを見回すとこちらを見ている者は多かった。
弥生はニカッと笑う。
「いや、ちょっとオレの呪文が面白くてさ!」
龍真に向かってにこやかにそう言い放ってから、弥生は賀茂に声をかけた。
「センセー、オレで終わりー?」
「おー、そうだ。最後だからって無駄に時間かけやがって」
実際はウェポンが謎の変形を繰り返していたというのが大半の原因ではあるのだが、弥生はそれを言うのがやぶ蛇であることが分かっていたので何も言わない。なぜならアビリティウェポンというのは本来、既に形取られたものが手の内に現れるものであるからだ。
それに対し弥生のウェポンは色が変化しただけでなく、形まで変わった。そのことを言ってしまえばこの学校どころか最悪の場合、政府からも目をつけられてしまうだろう。それが分かっている弥生は元よりそのつもりだったが黙秘を決め込むことにしたのだ。
弥生が賀茂から龍真たちのいる方へ振り向くと、龍真達が何やら話しているようだった。
「皆何の話してんの?」
「武器の名前でも言い合わないかという話をしてた」
「ていうかあんた何なのよ、呪文が面白いなんて。一体どんな楽しい人生を送ってきたんだか」
弥生からすれば皮肉と取れるような言葉を吐いた玲香は、何もないところから突如現れた槍を突き出した。アビリティウェポンは念じることで自由に出し入れできるのだ。
「私のウェポンは“暁月”よ。槍は異能を抜いたら一番得意な武器ね」
ウェポンはその人物の最も得意な異能の属性の色であることに加え、最も得意とする武器となることが一般的だ。そのことを知っていた弥生は一つの憶測を立てた。
(ボクのウェポンの形が変わってたのは全部の武器が等しく扱えるからで、色が変わったのは得意異能が多すぎるからかな)
「あ、えっと、私のウェポンは“雪華”です! 弓です……!」
結乃の得意な武器は弓だったようだ。矢が見当たらないのは、それを異能で形造る仕様だからだろう。過去に対峙した敵が異能のエネルギーで造られた矢を飛ばしていた記憶が弥生にはあった。
(蒼炎サンは両手剣だよね)
蒼炎は両手剣を片手で扱う戦闘スタイルだ。今使っている武器は確か両手剣が分裂して双剣にもなるというものだったはずだ。
「俺はこの剣だな。“蒼剣”だ」
弥生の想定通り、両手剣を出して龍真は言った。
この剣も分裂するのかな、などと考えていると他の三人が弥生を見ていた。
「弥生のウェポンの名前はなんて言うんだ?」
弥生は少しの間考える。
(“黒讐”、なんて字面からして物騒だからなー。どうしよう)
だが口頭で言って漢字について何か聞かれても適当に誤魔化せばいいと考え、弥生はウェポンを出して口を開いた。
「オレのはねー、“こくしゅう”ってんだ」
「コクシュウ……?」
「聞いたことない単語ね。他の二人は漢字がなんとなく想像できるけど」
「ナイフ……か? それにしては刀身が少し大きいな。色からしてコクシュウのコクは黒か?」
(うーん、正直ここまで漢字を気にするとは思わなかった。シュウ、ねー……あ)
「そうそう! 黒に秋で“黒秋”!」
(アキちゃん、名前借りるよ〜)
弥生はとっさに仲間である秋の名前を使うことに決めた。
「なんで秋なのよ?」
「うーん……秋が好きだからなんじゃない?」
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