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翌日、異能実技の授業を始めようとしていたSクラスに、代わりの実技授業担当者が来たとの通達があった。本来の担当の者は一身上の都合で数ヶ月間休職することになっているためだ。
「有鷹傑だ。もちろんこのクラスにはいないと思うが、弱い奴には徹底的に指導していくからな」
ガタイのいい有鷹はそう言ってクラスの面々を見渡し、ある一点に目を向けると一瞬口角を上げる。
「……おいおい? なんでガキがこんな場所にいる」
「ぁ……う……」
標的にされたのは10歳の麒麟児、新藤結衣だった。
結衣に近づいた有鷹はギロリと結衣を睨む。実力はあるが精神は未だ10歳である結衣に、これが効いてしまった。
「こんなので怯んでたら実戦じゃあどうするんだぁ? んー?」
カタカタと震えて何も言えない結衣を見て、有鷹はニタニタと笑っている。
すかさず龍真が動こうとしたが、先に動いたのはクラス替えの時から仲の良かったであろうセレスティアだった。
「あり」
「……先生、少し大人気ないんじゃない……?」
有鷹、と言いかけた最上を遮り、セレスティアは言い放った。最上もこくこくとうなずいている。
「あん? 生徒の癖に教師に楯突いてんじゃねぇよ!」
ドスの効いた声で今度はセレスティアに詰め寄る有鷹。しかし、それでセレスティアが怯むことはなかった。
「いいか」
「子供相手に凄むなんて、人間として恥ずかしくない……? 私はそんなことするくらいなら死んだほうがマシ……」
有鷹にいい加減にしろ、と言おうとした最上を遮り、セレスティアは言い放った。最上もこくこくとうなずいている。
「っ生意気な……!!」
激昂して有鷹がセレスティアに手を振り上げる。すかさず龍真が動いたのを、弥生は見逃さなかった。
「やめ」
「有鷹教員、横暴な真似は止めて頂きたい」
やめろと言わんとした最上を遮り、有鷹の腕を掴んだ状態で龍真は言い放った。最上もこくこくとうなずいている。有鷹は突然現れた龍真に目を見開いていた。弥生はその光景を見て、また龍真が学生の範疇を超えたことをしている、と心の中で笑いつつ口を開いた。
「龍真の言う通りだ。さっきから見てて良い気がしないぞ。それに龍真の動きにも反応できてなかったし、ホントに教師か?」
「そうね。正直私も見えなかったけれど、教師なら見えて当然なんじゃないの?」
弥生に玲香と、次々に投げかけられる言葉に有鷹はギリギリと歯軋りをし、屈辱に塗れた醜悪な顔を見せた。
(まあ正直蒼炎サンの動きを一教師がまともに追える訳がないだろうけど……無駄にプライドが高そうな教師だし、ここで煽ったから相当効いただろうなぁ。子供を相手にすると総スカン喰らうし、その怒りは一体どこへ向かうんだろうねー? ふふふ)
半ば確信しながらも弥生は密かに笑う。
(龍真クンにとってイイ刺激になってくれると思うと楽しみだね。まぁ、もしボクのお楽しみの邪魔をするようならその時は消せばいいだけだし)
弥生は値踏みするように有鷹を見やる。
弥生の視線の先にいるその男は龍真を一瞬物凄い形相で睨めつけてから目を逸らした。
その後の授業は意外にも何事も無く終了した。弥生としては有鷹がすぐに何かを仕掛けてくるとは思っていないため何ら不思議ではなかったが、ことが起こったのは翌日の異能実技の授業中のことであった。
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