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脳みそ
「予約はミリがとったってさ」
「んだがー…。」
美里子からの連絡が来て、銀司は金史郎へ電話した。
「金のお陰だな。とにかく、良がった。
気ぃ変わんないうちに検査してもらえるといいけどな…」
「…」
金史郎は応えない。
「心配か?」
「うん。薬とか、何飲まされるもんだがって。」
優しいな、こいつは、と銀司は思う。
「したら、お前のとこで、おふくろ引き取るか?」
「おふくろ承知しねえべ。仲悪いもん。」
「あー真由美さんとが。」
母は、何故か長男次男どちらの嫁にも対抗意識があるようで、
気に障る所をこきおろしたり対立することはあっても
なんとか妥協してうまくやろうという考えがなかった。
2人とも、妻が痛めつけられるのも母がないがしろにされるのも
見たくはない。
「ああ…。したけどよ、すげえな。」
急に金史郎の声が感心するように調子が変わる。
「何が。」
「あんだけ昔のこと覚えてて、ずうっと記憶続いてるべ?
それ、なして今の事、被害妄想だかなんだか知らねえけど、話作れるべ。
それが、記憶なんだべ?おふくろの。
作り話が記憶になって、憎たらしいの
なんのってなって、突き飛ばしたりすんだべ。」
「あーそれ、俺も思った。脳ってすげえな。」
「なんでそったら風になるべな。やっぱし、
苦労ばっかしして、辛がったり、悔しがったりばっかししたからかな。」
「んだがも知んねえな。とにかく結果待ちだぁ。」
銀司は携帯を耳から離し、コートのポケットに入れる。
したけど、これからどうなるんだか…な。
ふと、昔母に無理やり飲まされた、
大嫌いなタツノコ(真鱈の白子。タチ)の味噌汁を思い出した。
味噌汁の黄土色の中にぽっかり浮かんだ脳みそのようなタツノコ。
不気味な白い色を思い出し、銀司は胃にむかつきを覚えた。
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