2人が本棚に入れています
本棚に追加
「銀にいちゃん。」
いつもは何か連絡ごとがあってもラインで簡単に済ませる末っ子の美里子が
直接電話してきた。
「あのね、母さん、ヘンなこと言う。」
「おふくろ?はは。いっつもだべ」
久しぶりの妹の声は、うれしかった。語尾でまた、はははと笑った。
嬉しかったから、美里子の声に怯えがあったのを銀司は聞き逃した。
「殺されるって言う。」
「殺される!?誰さ。」
「向いの部屋さ住んでる人。」
「まさが。向かいの部屋の人って、おふくろより歳いった、
ひょろひょろの婆さんだべ」
「うん…」
「また喧嘩でもしたのが」
喧嘩っ早くて勝気な気性の母は、
昔からやり込めて勝たなくてはならないというはた迷惑な信念を持っていた。
その気性が、老人ホームでちょっとばかり発揮されたか。
「母さん、後ろから、突き飛ばされたって言う。」
「へ?あの婆さんさ?」
「うん…
あたしが体悪いの知ってで、押したんだ、
その上いろいろ文句言って来て、私ば殺す気だって言って、
晩御飯に食堂さ行く時、階段で御婆さんの背中思い切り突き飛ばした。」
「まさが!!」
たまたまその場にいた施設の職員が女性を抱き止めたため
大事には至らなかったという。
母は踊り場で、鬼の形相で仁王立ちしていたらしい。
「ちょっとこれからのことあるから、家族と話したいって、
施設の人が。
銀兄、来れる?」
「あー…わかった。金さは、言ったのが?」
「まだ。」
「俺がら言っとく。何時さ。」
「私たちに、合わしてくれるらしい。」
「んだが。お前も大変だったな。お疲れさん。
して、おふくろ今どしてる?」
「うん。昨日行ったっけ、喜んでくれてね、楽しそうにデイサービスのこととか
話してた。習字褒めらいだって。」
最初のコメントを投稿しよう!