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銀司は母の、美しく雄渾な文字を思い出した。
母の手紙にはボールペンでよくもこんなに、と思うほどの達筆で
息子の体をいとう文章が縷々綴られている。
そういえば、しばらく母は手紙をよこさない。
昔から筆まめな人だ。
メモ用に切ったチラシの裏にでも、包装紙にでも、手近にあったものに手紙を書いた。
デイサービスだ、カラオケだと
父が死んでから羽を伸ばして忙しいのだろうと軽く考えていたが、
忙しくて書けないのではなく、
書こうとしても頭の中が混乱して書けないのじゃないか。
胃の腑の上がじん、と痛んだ。
「そうが…。落ち着いてんだな。美里子仕事で大変だけど、ちょっと通ってやれ。」
「うん」
「したらな。」
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