兄弟

3/3
前へ
/9ページ
次へ
銀司は母の、美しく雄渾な文字を思い出した。 母の手紙にはボールペンでよくもこんなに、と思うほどの達筆で 息子の体をいとう文章が縷々綴られている。 そういえば、しばらく母は手紙をよこさない。 昔から筆まめな人だ。 メモ用に切ったチラシの裏にでも、包装紙にでも、手近にあったものに手紙を書いた。 デイサービスだ、カラオケだと 父が死んでから羽を伸ばして忙しいのだろうと軽く考えていたが、 忙しくて書けないのではなく、 書こうとしても頭の中が混乱して書けないのじゃないか。 胃の腑の上がじん、と痛んだ。 「そうが…。落ち着いてんだな。美里子仕事で大変だけど、ちょっと通ってやれ。」 「うん」 「したらな。」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加