施設

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その週の土曜日、銀司と弟の金四郎は、施設事務所で美里子と落ち合った。 それぞれ家庭を持ち、子供達も独立した今になって、 母が騒ぎを起こした。 気丈で、考えるより早く行動する、母の同世代には珍しい気性の女だろう。 父銀太郎の没後いくつかの法事を済ませると早々に家と身辺を処分し、 その方面に詳しい知り合いのツテで施設に身を寄せた 母の手腕は鮮やかで潔かった。 その母が。 「おふくろさ、気ぃつかれでないべな美里子」 「大丈夫だよ。あたしから連絡あるまで、部屋でテレビ観てると。」 金史郎は無言でポケットに手を突っ込み、接客用ソファに沈み込んでいる。 事務所の女性が運んできた茶は誰も口をつけぬまま、丸い茶碗の中で冷えた。 「おはようございます。おそくなりまして。」 部厚いファイルを数冊抱えて長身の男が年配の女性を従え入って来た。 3人は立ち上がる。 「施設長の澤山です。 こちらは、新堂さんを担当しているケアマネージャーの三塚です。」 よろしく、と女は頭を下げ椅子にかけた。 「母がご面倒をおかけしまして」 銀司が頭を下げる。つられるように二人が会釈する。 「おかけください。お忙しい所、お疲れ様です。」 「母が、入居者の方を突き飛ばしたと…」 銀司から口を開く。 「はい。職員が抱き止めましたから大事には至らずに済みましたが…。 悪くすれば刑事事件にも発展する事態ですので、今回おいでいただいたわけで…」 「したけど、ね?おふくろ…母も、その人からは酷い目にあわされてたみたいでしょ? 突き飛ばしたり、じろじろ睨んだり。 ものだって部屋からずんぶ、()ぐなった、盗らいだらしいね。」 金史郎が抗議する口調で言い募る。 「金…止めれ。」 ため息交じりに止める銀司。 「そのことですが…。 確かに、廊下で新堂さんと、その方がトラブルを起こしてはいます。 しかしそれも、その方が(つまず)いて、 新堂さんにつかまったという事なんです。 その時その方は新堂さんに謝ったんですが… 新堂さんはその方にいろいろ暴言…悪態を言っています。 悪態をついたのは、新堂さんの方なんです。 こちらの職員が聞いていますし、見ていますから。 ものが盗られた、と言うのも、盗られた物や時間帯からして、 どうもそういうことは…考えにくいのですが。」
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