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金史郎はえ?と目を丸くして黙り込む。浅黒い丸い顔の中に白目がぎょろつく。
「とにかく…そういうことを、大声で職員に怒鳴るものですから…。
私どもはいいんです、そういう事態に対しての訓練も勉強もしていますから。
しかし、それを見ている入居者の中には、ですね、
いろいろな介護度…いろいろな方がいらっしゃるものですから、
その様子を見るだけで不穏になったり、施設に対し不信感を持つ方も出てきて…。
他の入居者さんからのクレームになっていましてね。」
「申し訳ございません」
地銀に勤めているだけあって、銀司の詫びの入れようは堂に入っている。
金史郎はふてくされて足を組み、美里子はだまって下を向く。
「認知症というだけでは、収まり切れない所があると思っています。」
ケアマネージャーの三塚が口をはさむ。優し気な声だ。
「それで…、精神科の受診を促してというか、説得していただきたいのです。
脳波も全部調べていただいて、適切な薬を処方してもらって、気持ちの昂揚を抑えるというか、穏やかになってもらうというか…」
「精神科!!」
金史郎が抗議するように声を上げる。
「…統合失調症…ですか?被害妄想とか…。それとも、脳の疾患…」
搾り出すように銀司。
「とにかく今の状態では、これ以上入居していただくことは難しい状態かと…」
「え、そこまで!?」
うつむき、黙って話を聞いていた美里子が顔を上げた。
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