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居室
部屋にはベッド、テレビ、細長いパイプのスツール2脚、箪笥、コップやティーカップの入った小さな戸棚。
窓の下に置いたテーブルにアロエ、筆記用具、
箪笥の上には亡夫の遺影が飾ってある。
「ミリ、来たのかい。」
ドアを開けた老婆の丸い顔の笑顔が、笑顔のまま止まった。
「金。おや銀もいるのかい」
ぷい、と背中を向けてよちよち部屋の奥へ入る。
慣れた様子で入っていく美里子の後ろを2人はついていく。
「縮んだんでねが」
金史郎が呟く。
母は窓の下に置いたテーブルを引いてくると、
アロエと筆記用具を箪笥の上に置いた。
美里子と母がベッドに、兄弟2人はスツールに居心地悪そうに腰かける。
「なしたの」
母はもう臨戦態勢にはいったようだ。
イライラと子どもたちを叱りつける直前の口調だ。
手強い。縮んだかと思ったほど小柄な母が急に、仁王に見えて来た。
「母さん、久しぶり。元気だったかい」
銀司が口火を切る。
「元気ださ、どっこも悪くないよ。ご飯も旨いし。」
「元気ってさ、なんだか、喧嘩したって。」
「なんもさ、あっちが悪いもん」
「したけど、階段で突き飛ばすってのは、どうだ?」
銀司は飽くまで穏やかに話そうと努める。
「したから言ってるべ!?あっちがいろいろ言うんだよ。
私の悪口いろいろ、いろいろ言うの。そごの戸の外さ立っていろいろ叫ぶの!
戸ぉばどんどん叩いて、私の悪口叫ぶの!」
戸の外?3人は顔を見合わせる。
「あのお婆さんが…?」
美里子がおずおずと尋ねる。
「そーおだよ!あの女、私の部屋からお金だって盗っていったんだから!」
「ほんとに!?うっそ…」
「嘘でない!!あんたも私を頭がオカシイって言うのが!」
「嘘」の言葉に母が激しく反応した。
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