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「大体あんた達何さ、お父さん病気で入院ばっかしして、あたし一人苦労して
学校出てないから辛くて給料安い仕事ばっかし、
それでも銀もミリも大学まで出してやったんでしょ!?
あたしは下に里香ちゃんだの徹だの居て、世話して学校さも通わしてもらえないで
一所懸命世話して育てて、結婚しても一所懸命働いだのに、
なんだのアンタたちまでバカにして」
ああ始まった。3人はげっそりとうつむく。
これが始まると、母の怒号は疲れも、終いも知らず続く。
母が戦争で自分の母を亡くした時、母の姉たちは既に嫁ぎ、
母の下には学齢前の弟と妹たちがいた。
母の父は、お前は学校なんていいから面倒を見ろと言ったらしい。
母の兄たちは、母の炊いたご飯を食べて勤めに出て、
妹と弟たちは母の繕った服を着て進学、就職した。
あたし一人上の学校へ行かせてもらえなくて。
母は60年以上前からの身の上をいつもと一字一句違えず唱えだす。
おふくろはつくづく俺らに罪悪感を持たせる言い方が巧い、
と金史郎はため息をついた。
「いいよもうわかったから。おふくろ、とにかく疲れてるんだ。
病院で診てもらおう」
しびれをきらしてあきれたように金史郎が言った。
「なんだとーっ」
途端に母はボロ布でも裂くような声で叫び、
拳を上げて前のめりに金史郎にかぶさっていく。
「うわ、おふくろ!」
「お母さん、やめて」
腕をかざし防御一方の銀司。
美里子の出したか細い手は邪険に払いのけられる。
「止めれおふくろ!」
小さなテーブルを横に突き飛ばし、がば、と丸い大きな背中が母に覆いかぶさった。
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