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「うわ、金。ちょっと、金、何あんた」
面食らった母の声がくぐもって聞こえる。
金史郎は母の頭を抱いたまま動かない。
「あんた、窒息、窒息すべさ!あんた!金!」
「おふくろー…。俺らば、…俺ば、安心さしてくれ。」
涙声だった。
くすん、くすんという小さな鼻を鳴らす音がしゃくりあげる声に変わる。
静まり返った部屋に金史郎の漏らす嗚咽だけが聞こえる。
「あんた。何泣いてんの。」
しばらくして、母が金史郎の丸い背中をぽんぽん、と叩く。
「ほれ、放してちょうだい。」
金史郎はゆっくり体を離す。セーターの袖で涙をぬぐう。
「バッカだねえ、あんた。ほれ」
母が差し出すティッシュボックスから金史郎は無言でティッシュペーパーをむしる。
「もうわかったから。金。わかったから。あんたたちも。分かったから。
ミリについて来てもらうから。忙しいんでしょ?もう、帰んなさい。あたしも疲れたわ。
悪いごとしたね。遠くから。」
うつむく長男、未だ鼻をグスグスさせている次男、
私まだ居る、と頑張る末娘をいいからいいからと母は部屋から押し出す。
その顔は、ゆったり微笑んだ愛情深い母親の顔に戻っていた。
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