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兄弟
「銀ちゃん。」
兄の背後で弟が呼んだ。
「神様ってよ、乗り越えらんねえ試練は与えねぇって、嘘だな」
冷たい向かい風に顔をしかめる銀司の背中に、
金史郎の腹を立てた声が吐く息ごとぶつかってきた。
「なんだって?」
「神様ってのはよ、乗り越えられねえ試練ば、与えねぇはずじゃ、ねがったのが?」
黙り込んで小石を蹴とばしながら歩いていた弟が怒り出したように言った。
「んだよ」
仕方なく振り向くと、うつむいた金史郎は口調とは裏腹に泣きそうだ。
「したらよ、なしておふくろそったらになった。」
鼻をすすりあげる。
「落ち着けぇ。」
銀司はうつむいたまま鼻の下を人差し指でこする弟に歩調を合わせ、
背中をぽんぽん、と軽くたたいてやる。
「ミリのゆってるごと、信じらんねぇぞ」
「んだな。したけど、ホームの人ウソつぐ訳もねぇ。ミリだって電話して来ねぇさ」
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