0人が本棚に入れています
本棚に追加
「初霜かぁ。寒くもなるわけだ……」
霜に触れた指先に、ミツネはハァーッと温かい吐息を吹きかけた。
「もう手袋、用意しなきゃなぁ。……あれ?」
ミツネはすぐ横の白菊に手を触れてみた。ふわふわしている。
「こっちは、本物か……」
朝日に霜がキラキラと反射して、どれが霜でどれが花びらなのかわかりづらいけれど、すべてが初霜の見せる幻想ではない。ちゃんと咲いている白菊もあるのだ。
「そうだよね。昨日までは咲いてるのとつぼみと半々くらいだったもん」
ミツネは昨日の朝の光景を思い出していた。
「そんな、全部の花が一日で咲いちゃうことなんて、ないよね……」
本物の白菊と、初霜がおりて咲いたように見えるがよく見るとまだ咲いていない白菊。
白菊がたくさん植わったプランターを見ながら、ミツネは思った。
なんだか、白菊のつぼみってずるい。
霜がおりて、きれいに咲いたように見えるなんて。
自力できれいに咲いてる、白菊だっているのに。
近視のミツネには、咲いている白菊も、初霜で咲いたように見えるつぼみも、どれも同じように見えた。
ミツネはイライラした。
白菊を茎から一本ずつ折って、確かめてみたくなった。
最初のコメントを投稿しよう!