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そして、初霜で咲いたように見せかけているつぼみには、言ってやるんだ。
「ずるいよ」
って。
そのとき、ミツネのおばあちゃんが雨戸を開ける音が聞こえた。
門の前にいるミツネに気づいたおばあちゃんは、
「おや、ミツネ。まだ出かけてなかったのかい。部活に遅れるよ」
決してとがめるふうでない、優しく穏やかな声だった。
「うん、もう行くよ」
ミツネは返事をした。少し、声がうわずっていた。
おばあちゃんはニコリと笑い、
「気をつけて行っておいで。お隣の河内さんから頂いた小豆を煮て、待ってるから。帰ったら一緒にぜんざいを食べようね」
「もう、朝からおやつの話? ダイエットしてるって言ったじゃん。……ふふ」
吹き出すミツネに、ははは、とおばあちゃんも笑った。
「そうだったね。じゃあ、お砂糖は少なめに煮ておくよ」
「でもお餅は二個食べるよ!」
「はいよ」
「行ってきまーす」
ミツネはそう言って、歩き出した。
……私、バカみたい。なんで、おばあちゃんが大切に育ててる白菊を折って確かめてやろうなんて思ったんだっけ。
ミツネはそっと、白菊の花に片手で触れた。
ゆっくりと歩きながら、ひとつひとつの花に優しく触れていく。
ふわっとした花びら。
冷たく指を刺す初霜。
背丈はどれも、同じくらい。
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