ホワイトアウト

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「え、や、ぇっと、待って。あ、あの、今二度って言った、よね?それって」 「いや、言ってない。気のせい。聞き間違い。空耳だ空耳」 背を向けたまま答えていたが、その声は珍しく動揺している。 「もしかして西尾くん、あの時の事……。一度目の時の事も、ていうか私の事覚えて……」 いてくれたの?もしそうだと、嬉しい。 「覚えてない!いっ、いや、覚えて、覚えて……ああ、くそっ!俺のバカっ」 青空に向かって彼が叫ぶ。 「そうだよ悪いか、覚えていちゃ」 顔を赤らめながら不貞腐れる彼が私を振り向きざま睨んだ。 不機嫌そうに開き直っている。 「履歴書の名前見てすぐにピンときた。こっちは初恋の名前なんだ、忘れられっかよ。だけど増山なんていつまでも俺に敬語で、完全に忘れてんなこいつって、いつ思い出すのかって。個人的都合で採用した罪悪感だってあったから、俺一人ずっと悶々としてイライラして。奇跡の再会に浮き足立って淡い期待してんのは俺だけかって!」 一気にまくし立てて溜め息を吐く。 「本当は今回の社員旅行に掛けてたんだ。スキー教えてやって距離縮めようって。ああそれなのに、本当にクソだ!」 悪態を吐く彼もまた、私と同じくホワイトアウトの中をさまよっていたのか。 思わず口元が緩む。 「で?何?増山は遭難して漸く俺の事思い出したってわけ?それとも山田から聞いた?俺がお前との事で柄にも無く恋愛相談したって」 不貞腐れる彼をこんなに可愛いと思った事は無い。 「あの、あのね、聞いて。私だって、初恋の人の名前忘れた事ないよ」 さっきまで諦めようと決めていたこの恋。 「だから私も、西尾くんと再会して淡い期待してた……って言ったら?」 そうしたら西尾くんは……。 いや、私達は脱出出来るのだろうか。 この、恋のホワイトアウト状態から。 了
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