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あの時も、こんな状況だった。
あれはまだ小学校の低学年の頃。
家族で訪れたスキー場で、私は家族とはぐれて心細くなりながら転んでは滑ってを繰り返して、集合場所と決めていたリフト乗り場を目指していた。
こんこんと積もっていく大粒の雪が、次第に私に向かって吹雪いてくる。私はとうとう身動きが取れなくなってその場で立ち竦んでいた。
体温がどんどん奪われていく。
不安に耐え切れず涙が溢れた瞬間だった。
『こんなとこで何してんだよ。ほら、行くぞ。付いて来い』
顔を上げると、クラスメイトだった。
下手な私を気に掛けながら時間を掛けてゆっくりと滑ってくれた彼。
下に着く頃にはあれ程降っていた雪が小降りになり、うっすらとリフト乗り場が見えてきて、心の底から安堵した。
それが私の初恋だ。
ーー初恋は叶わないーー
世に言うその言葉はやはりその通りで、奥手だった私はモテる彼に告白もする事なく転校という形で幕を閉じた。
スキーがとても上手かった彼。
大会がある度に彼の笑顔や滑る姿が紙面を賑わわせていて、離れてからもそれを見るのが私の冬の楽しみの一つだった。
西尾聖司くん。
その彼と再会したのは三年前。
中途採用の試験会場。
その時の面接官が彼だった。
彼はもう、私の事など忘れてしまったのだろう。
私の履歴書を見ても眉一つ動かなかったのだから。
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