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ああ、指先が冷たくなってきた。
転びながらでも、先に進まなくては。
立ち上がって辺りに目を凝らすが、リフトの柱すら白い雪に隠されて見えない。
あの時のように不安で満たされる。
でも、もうあの時のように王子様は助けに来てはくれないのだ。
自分で何とかしなくては。
恐る恐る滑り降りる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
白い雪は地形をも隠す。
斜面がなだらかなのか急なのか。
それすら分からない。
「きゃっ」
途端にコブに板が引っかかって転ぶ。
更に雪にまみれた私は、泣くまいと奥歯をぎゅっと噛み締めた。
「おい、増山」
不意にどこかから呼ばれて息を飲む。
まずい、とうとう幻聴まで聞こえるように……。
「おいって。大丈夫か?」
腕を掴まれ我に返る。
あの日と同じ、王子様の登場。目の前の想い人に、体温が上がった。
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