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そうして時が過ぎ、美奈と蒼は私にある男の子を紹介した。
「あなたのボーイフレンドだよ。仲良くしてあげてね」
私は彼を一目で気に入った。そして偶然ながら彼も私を気に入ってくれていたようで、私達は瞬く間に恋に落ちた。いつも同じ場所で、同じ風景を見ながら、いつまでも飽きることなく話した。
それからまた時は過ぎ、樹々が鮮やかな花をつける春になった。
私のボーイフレンドは……消えてしまった。
わかってはいたんだ。いつかはこの日が来ることも。
そして、私にもその日が近づいていることも。
最期に美奈に会いたかった。私を生んでくれて、彼と出会わせてくれて、本当に嬉しかった。結局虹は見ることができなかったけれど、とても楽しかった。
ありがとう。
目の前が霞んできた時、私の目に映った空には、七色のアーチが架かっていた。嗚呼、美奈。これが虹ね。きっと最期に見れたのは貴女のおかげだね。
そして、私は静かに目を閉じた。
「ママー! 前にここにあった雪だるまさん、なくなっちゃったー!」
「こら葵! 走ると危ないでしょ、陽奈のペースに合わせて」
「……パパとママが作った雪だるまさん、陽奈もみたかったな」
「まあ、もう春だからね。逆に最近まで残っていたのが奇跡なのよ」
美奈の頭に、ふと蒼と二人で雪だるまを作った日の会話が過った。
『いつか、虹が見れる日がくるといいね』
「やっぱり無理だよね……」
ポツリと呟いた美奈の袖を、陽奈が強く引っ張った。
「ママ! 雪だるまさん、笑ってたんだね!」
その言葉に美奈は少し驚く。不器用な私が作った雪だるまは、少しぎこちない顔をしていたはずなのだが……
「! ……虹、見れたみたいね」
三人が過ぎ去った木の下には、濡れた地面ににっこりと微笑むように置かれた小枝があった。
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