シロ

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 朝食の片付けを終えて、家具の形を手で確かめながら台所を出る。居間につながるのれんをくぐると、白い影が動いた。 「シロ」  呼びかけると、白い影はばうばうと興奮気味に吠え、彩葉(いろは)の胸に飛びこんできた。両腕がふわふわの毛でいっぱいになる。  毛並みをなでてやると、その塊は心地よさげにくぅん、と鳴いた。弛緩しきった四肢を預けてくるので、重みでよろめきかけたところ、塊はさっと退いて彩葉を支える。 「ありがとう」  言うと、嬉しそうに、わん、と鳴いた。  シロは、彩葉の足元にとどまったまま、背筋を伸ばして座っている。行儀よく待つ姿勢に、彩葉は頬を緩める。 「散歩に行こうか」  シロは嬉々として二回吠え、定位置に置いてあるリードや首輪をくわえて持ってきた。シロは行儀よく自分から首を出してくるので、首輪をつけることに手間取らない。すっかり指になじんだ手順を手早くこなす。  首輪をつけ終えると、すぐにリードを引いて彩葉を急かす。家事をしてほどけかけた三つ編みを直そうかと思ったが、おしゃれが気になるほうでもなかったのでシロを優先することにした。  導かれるまま玄関へ向かい、下駄箱の横に準備してある荷物を手に取って、歩きやすい靴を履く。ドアを開ける前に、下駄箱のうえに飾られている写真立ての縁をそっとなでた。  そこには、幼い彩葉と、若い頃の両親が 写った写真が収められている。その写真の両親がどんな服装をしていたかはもう思い出せないが、幸せを詰め込んだような笑顔は今でも思い描くことができた。 「行ってきます」  声をかけてから、玄関を出た。
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