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フォークをパスタの中に潜り込ませる。程よく絡んだトマトソースに降りかかっているクリーム色の粉チーズ。口に運ぶのを、躊躇わずにはいられない。パスタにかかっている白い存在全てが“それ”に見えてしまう。唇に触れるまであと数ミリの所で、店主を横目で見た。カウンターの奥で、深夜に営業を始めるバーで使用するカクテルグラスを拭いている。
人を嘲笑うにも程がある。人生の駆け引きをしているというのに、まるで他人事。
フォークに巻きつけたパスタを、やけくそ気味に口に放り込んだ。一回、二回、とゆっくり、着実に噛む。
口に広がったのは、薬物特有の苦味じゃない。仄かに酸味の香るトマトソース。そしてそこに溶け出すようなまろやかなチーズの香りだ。
一つ目の品が外れて残念に思った反面、“当たらなくてよかった”と思ってしまった。安堵して良い状況じゃない。本当に、心からの安堵の時は、彼が料理に混ぜ込んだものを見つけた時だ。とても美味しいはずのナポリタンが、口の中で徐々に苦味を帯びてきたような気がする。恐怖は人に幻の感覚を見せる。この苦味は、偽物だ。
もしかすると、その独特の苦味さえもわからなくさせるつもりなのかもしれない。ならば、練り物に混ぜるのが良いだろう。一番怪しいのはこのベーグルだ。米粉の良い香りを立てる焼きたてのこのパンはこの店オリジナルの商品で、テイクアウトの販売もしている。仮にこのパンに混ぜ込んでいたとして、寝かせた生地に入れ込むのは難しいが、あらかじめ私が来ることをわかっているのなは話は別だ。
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