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 ベーグルを口に詰め込み、紅茶で流し込んだ。口の中でジワリとふやけたベーグルが、紅茶と混ざり合って喉を伝っていく。  大の大人が情けないが、視界がぼやけ、鼻の奥がツンと痛んでいる。今生きているのが不思議な状況だ。どれだけ彼を見てきて知っていたとしても、相手は犯罪者だ。残酷な考えを持っていたとしても、何も不思議じゃない。 呼吸が苦しい。思考がボヤけ、粉砂糖のかかったチョコレートケーキ、そして紅茶に入れる用のシュガーポットをテーブルから投げ飛ばしたくなる。 「はあ、はっ、は、」 まるで呪いにでもかかったかのように、急激に恐怖が全身を駆け抜けた。冷静になろうとすればするほど、底知れない穴の淵に立っているような感覚に陥る。真っ暗な洞穴に、飛び込んでしまえば楽なのはわかっている。けれど、その一歩を踏み出す事に、誰だって悩み、躊躇するだろう。 皮肉な事に、ケーキの中ではチョコレートケーキが一番好きだ。だがもう、これからは二度と、口にする事ができなくなるだろう。最後の好物の味は、きっと苦い。 焦げ茶色を際立たせるように振るわれた白い粉を均等に取るように、フォークを突き刺す。カツン、と皿にフォークが当たり、勢いのまま、口に含んだ。     
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