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嘘だったのだ。彼は、あの料理の中にコカインなど混ぜてすらいなかった。粉チーズ、パンの生地、グラニュー糖に粉砂糖。意味ありげに用意されたそれらの物を一目見た瞬間から、私への洗脳は始まっていた。いや、洗脳ですらないだろう。勝手に手紙の文を“そう”捉えた自分の失態だ。  残念なのは、彼への信頼を無くした事。嘘をつかないと信じていたが、彼もやはり、そこらの犯罪者と変わりないという事だ。 「ご馳走様でした」  覚悟して欲しい。これからは、尊敬も信頼も何もかも捨てて、必ず貴方を追い込みます。 ―― 巡査殿。役職を剥奪されてもなお私を執着に追い続けるその心意気、感服いたします。貴方が警視庁に所属している間から、私の秘密裏に行っている事業を暴こうと熱を入れていたのも存じています。 最初は、私の店の味を求めて毎日のように通ってくださっている方であると思っていたもので、とても残念でした。 「こんなに残しては、娘さんに叱られてしまいますよ」  店に戻ると、彼の姿は消えていた。残されたのは、彼が残していった“証拠”だけ。 フォークを取り、一口だけ掬った形跡のあるケーキに手を掛ける。三角に切り取ったケーキの側面に差し込みゆっくりと裏返し、露わになったクリームの層から、クリームにまみれた小さな袋を摘まみ出した。     
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