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年月を重ねても、良い意味で変化する事のない店内と、漂う香り。目に優しい木の色に彩りよい観葉植物、思考を妨げない絶妙な音量とテンポで流れるジャズ、見る者を楽しませるインテリア。どこからどこまでも、店主の細やかな気配りが見れる、完璧なカフェだ。 自傷気味な笑みを浮かべ、氷の浮かぶグラスを眺めた。 「いらっしゃいませ」  彼は相変わらず、紳士的な男性だ。そしてその穏やかな面持ちの裏の姿を、私は見透かすようにジッと、瞳を見つめた。 二年前、警視庁を“クビ”という形で辞めざるを得なくなった。理由を話すと長くなるが、簡潔にいうと、極秘で行なっていた尾行調査が犯人に勘づかれるという失態をやらかした。神経を尖らせ慎重に捜査を進めていたが、ターゲットの方が何倍も、洞察力に優れた人間であった。 それが、このオーナーだ。 麻薬密売の情報が耳に届いた事よりも、その容疑をかけられているのが彼であった事に驚きを隠せなかった。貫禄があり、物腰柔らかく、鼓膜を震わせる低い声は不思議と気持ちを安らかにさせてくれるのだ。昼はカフェのオーナー、夜はバーテンダーとして店に立つ彼はどちらも魅力的な存在だ。     
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