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彼がコカイン密輸に関係があると判明したのは、密輸組属するメンバーのリストの情報が漏れてきたからだ。『ノブユキ ツゲ』。役所の情報から洗い出せば、あっさりと世界中の同姓同名者が上がった。その中でも一番疑いが濃厚にかかったのが、このカフェのオーナーの『柘植 延幸』だ。なんでも、捕まった麻薬犯の一人が洩らした容姿と彼の容姿が一致したという。 そんな理由で決めつけては、と彼を擁護しようとも思ったが、そんな事も気にも留めていないのか、あろう事か白昼堂々と取引を行っているのだ。珈琲豆を入れるのと同じ袋に入れたコカインを、あたかも珈琲豆を購入したかのようにみせ、相手に渡す。 一か八か、その場で取り押さえようとした事は何度もあった。しかし、下調べでわかっていた事であるが、彼と取引しているのはこの街で権力を握っている組の者だった。下手をすれば、国が、私を抹殺しに来るだろう。 私の中で密かに“憧れ”を抱いていた人物が、一瞬にして“敵”になった事に一晩中落ち込んだ事もあった。何かの間違いではないかと何度も資料を読み直し、彼が容疑者から外れるように懸命に情報を探した。けれど資料を捲ればめくる程出てくる情報は、彼の容疑を確信づけるものだった。 よく利用するだけあって、彼からすれば私は常連客として写っていたのだろう。いつも料理を運んで来るたびに、少しの世間話を持ちかけて来ていた。彼が追うべき対象になってからもそれは変わらなかった。しかし、それがいけなかった。彼を見る私の目が変わったのにいち早く気がついたのは在ろう事か、彼自身だった。     
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