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厄介なのは、彼のように“使用していない人間”だ。オーナーとして店に立ち、毎日客に料理や珈琲を振舞っていることから、彼自身は使用していない事は明らかだ。関わりがあれど、明確な証拠がない限り手出しができない。それを嘲笑うかのように彼はいつもと同じく、物腰柔らかく、凛とした、人を虜にしている。 巡査の肩書きが無くなった現在も、こうして彼を捉えるべきターゲットとして追い続けている。幸い、今は一般人だ。かえって動きやすくなったといえる。堂々とすることで取引相手が来たとしても、早々行動に移せはしないだろう。店を訪れる日時をランダムにすれば、流石の彼でも予測はできない。 こんな事をして警視庁に復帰できるとは思っていない。それでも執着するのは、この件は誰でもない、自分で解決したいと思ったからだ。 そして彼は、必ず私が捕まえると心に決めていた。 数日前、家のポストに入っていた一枚のチラシ。その店名は、彼の店のもの。内容は、新メニューの案内だった。いつも店の前や駅の周辺でアルバイトが配布をしているのは知っていたが、こうして自宅に直接ポスティングされるのは初めての事だっただけに、不信感を抱いた。 そしてその不信感は、確信に変わった。紙質の良いチラシを裏返し見ると、几帳面な文字がこれまた几帳面に連なっていた。 『 いつもご利用いただきありがとうございます。 日頃の感謝を込め、私がセレクトしたメニューを是非貴方様に召し上がっていただきたく、ご案内差し上げた次第でございます。お代は勿論、頂きません。     
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