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 きょとん、とした表情はすぐに歪み、今までに見た事のないくらい高らかに笑った。 「安心してください、コカインの致死量は0.5グラムから1.0グラムですが、この料理にはそこまでの量を入れてませんよ」 多くを語らないのは、彼の手だ。あえて少しの情報を与える事で、相手に深く深く、必要のないところまで考えさせ、恐怖を増大させる。わかっているのに、彼の掌の上で転がされてしまう。 致死量入れていない、ということは致死量に満たない量入れているということ。いや、正直それさえも本当の事かわからない。粉0.5グラムなど、あってない様なもの。誤って料理に入れてしまっていたとしても、混ぜ込んで仕舞えばわからない程度のものだ。 テーブルに並べられたのは、粉チーズのかかったナポリタン、網カゴに入れられたパン、粉砂糖のかかったチョコレートケーキ、そして紅茶に入れる用のシュガーポット。 「召し上がってください」 これは、彼からの挑戦状。長きにわたり自分を観察し続けて来た者への。そしてそれが今日、終わろうとしている。 私が“あれ”を見つけ出したその時は、恐らく私の人格は変わってしまうだろう。高揚する気分と引き換えるように、何を犠牲にしても“あれ”を欲する心身へと。     
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