一 ホワイトキャンバス

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ダイニングと同じく、アトリエは6畳くらいしか無い。 真ん中よりやや奥に設置されたイーゼルの周りには、 スケッチブックや絵の具、筆、パレットが散らばっている。 壁には本棚と、物置と化した机。 左奥には以前彼女が使用したペンキ缶が積み上げられており、 赤 青 黄等賑やかな色とも相まって一際存在感を放つ。 そのせいで部屋が6畳よりも狭く感じる。 扉の前には、無造作に置かれている描きかけのキャンバスがいくつかある。 イーゼルに置かれたキャンバスだけは、何も描かれていない。 「クライアントの千里さん、進捗を心配されてましたよ」 品川がそう言うと、 部屋の右奥で体育座りをして塞ぎ込んでいた天王寺(てんのうじ) 深緒(みお)が顔を上げる。 淡く茶色いスカンツに、リブ編みの深い紺色をしたタートルネックセーター。 セミロングの黒髪に、赤いメガネがよく目立つ。 何故なら、むちゃくちゃズレているからだ。 これは彼女の見慣れた光景だが、今日は隣のペンキ缶より存在感が無い。 彼女は品川を見つけると何度か口をパクパクさせた後、ようやく言葉を放つ。 「どうしよう。何も思い浮かばない」 あーあ、やっぱりこうなったかと心の中で舌打ちをした。 天王寺の弟子になっておおよそ一年と半年。わかったことと言えば、 彼女はプレッシャーというものに極端に弱いということだ。
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