一 ホワイトキャンバス

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<閃光>というタイトルで発表した天王寺 深緒の処女作は、 タイトル通り強烈な光となって見る者の心を釘付けにした。 かと思えばそれから半年ほど音沙汰が無く、 やっと発表された<信仰>はあまりの出来の悪さにみんな戸惑った。 しかしそれを深刻に受け止める者は少なく、 <閃光>を描いた人物という事で期待もまだまだ大きかった。 その為次の作品である<奇跡>と<必然>の連作を見た時の落胆が一際大きく、 彼女の評判はどん底にまで落ちてしまった。 ところがである。 5作目となる<旋律>で再び強烈な個性を発揮。 今度はあまりの出来の良さに周りは戸惑った。 戸惑いながらも、みんなは天王寺 深緒の復活を大いに喜んだ。 現在作品をオーダーしている千里(せんり) 伸隆(のぶたか)もその一人だ。 美術評論家として絶大な影響力を持つ彼のお墨付きをもらう事ができれば、 彼女は週2のパートでやっと生計を立てられる貧乏生活から脱却できる。 逆に彼の信用を失う事になれば、 今後天王寺 深緒の絵を高く買ってくれる人はいなくなるだろう。 そうなったら週5でパートをするしかない。 品川 実は想像する。 絵も描かず、パートで暮らす人に弟子入りしている自分の姿を。 締め切りは二日後。 何としても描いてもらわねばならない。
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