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三 峠
目が覚める品川 実。
時計の動く音を頼りに時計の方へ顔をやる。今は午前8時32分。
という事は、締め切り最終日の朝だ。
あたりを見渡すと、どうやら天王寺 深緒宅の寝室のようだ。
寝室はアトリエの隣にある部屋だ。品川は彼女のベッドで寝ていたのだ。
起き上がってアトリエを覗くと、
驚く事に天王寺がキャンバスに向かって絵を描いている。
描いているものにもまた驚く。
「品川君。もう良くなったの?」
邪魔はすまいと思っていたが、天王寺に気づかれてしまった。
「寝ている僕ですか」
「上手でしょう?タイトルは【動悸】」
「動悸ですか。幸せそうに眠ってますが」
「だって心配したもの」
「なるほど。ご迷惑をおかけしました、おかげさまですっかり元気です」
「それも困るわ」
えっ。
元気になって否定されるとは思ってもみなかった。
「後でもう一度写真をとろうと思ったのに、モチーフが動いちゃダメじゃない」
そういうことか。仕方ない。
「どうもすみません」
「いいわよ謝罪なんて。その代わり…」
「なんですか」
「もう一度風邪引いてくんない?」
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