八頼 北より来し者と石壁

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 陽一の言葉に梨杏は甘い笑顔で返すが、中身を知っている陽一は吐き気を催しそうだった。  決して素顔を見せず、姿形を変える梨杏を陽一もケイも根っこでは信用していない。  とはいえ、彼は見た目ややることはあれだが、有能でありしっかりとした雇い主であることには違いなかった。 「それじゃあ、もうひと頑張りしてもらおうか」  朗らかに言いながら、彼はゆっくりと陽一を見る。 「彼女はどこだい?」 「今は……向かってんのは清水寺やな」 「ん? さっきいたのは二年坂じゃなかったのかい?」 「そうやな。近くにアジトでもあるんちゃうんかね」  陽一にとっては正直どうでもいい。  とっとと、このよそ者どもの関係ない仕事を終わらせたかった。  だが同時に、嫌な予感もしていた。  梨杏が動向する仕事はいつだってやっかいなものだからだ。               ・
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