九頼 鬼は酒を所望する

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 【火呂巳(ひろみ)】は相性が悪そうだ。【鷲峰】も先ほどの一撃で、行動不能となっている。【石島(いしじま)】は逆転しうる最後の切り札だ。今はまだそのときではない。  現状で、好転しうる鍵が存在しない。  無情にも巨人は彼の葛藤などお構いなしに、距離を詰めてきた。 「よう……一、にげ」  弱々しいケイの言葉が耳に届く。  瞬間的に彼女を強く抱き寄せた。  離すつもりなど毛頭無い。  一歩身を引き。 「……ちっ」  が、相手の一歩は陽一の二歩に相当する。  もうその長いリーチの圏内だ。  そのときだった。 「楽しそうやないけ」  闇に声が木霊した。  その瞬間、全てが止まる。  石畳の奥……闇の中からその者は現れた。
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