壱拾頼 月野陽一は祈る

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 そこは山の上だった。  とはいえ、そこまで標高が高いわけではない。  車があれば誰でもすぐにたどり着けるような、そんなところだった。  京都東山。  普段ならば、都を一眸できる絶景の夜景スポットとしてアベックが群がって来ている。  が、今は誰もいない。  そこをゆっくりと彼は歩いていた。 「隠れん坊って歳でもないやろ。とっとと終わらせましょうや」  あくび混じりに実にめんどくさそうに漏らす。  そんな彼の声音に、クスクスという小さな笑い声が静かに木霊した。 「つれない男になったものですね。そこはノリで来てくれると楽しいんですが」  女の声が響き、彼は大きくため息をついた。  振り返ってみれば、街灯もなく闇に包まれる林から溶け出るかのようにして黒服の女が出現した。
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