壱拾頼 月野陽一は祈る

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「名は【義死鬼(ぎしき)】またの名を八面大王という」 「……知らへんな」 「知らないことはないのですよ」  彼女の言葉に、怪訝そうににらみ返す。 「義死鬼の妻を滅ぼしたのは、ほかでもない貴男と彼女なのですから」 「……俺と輝ってことか?」  ここにはいない恋人、華峰院家次期党首である羽根井輝。  彼女と共に滅ぼした相手…… 「まさか、三年前の」 「そう、華峰院家を乗っ取り、この古都をめちゃくちゃにしようとした鬼女【紅葉(くれは)】」  まさに苦い記憶だった。  まだ何かあるというのだろうか。 「まずはその先兵である【悪路王(あくろおう)】が動いているのですよ」  女……晴羅(せいら)の言葉に、肺一杯に紫煙をため込め彼は吐き出した。 「それで貴男はどうします? 現世の酒呑童子さま?」  宮酒鬼市は、ひどく疲れた顔から鬼の顔へと変わっていった。              ・
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