壱拾頼 月野陽一は祈る

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 その動きは陽一が対峙した狼男よりも速い。予想を上回る速さに、彼の反応は遅れた。  さすがに一気に実力行使とは思っていなかった。今は防御の術が…… 「あかんやんか!」  地面から、水面を飛び出すかのように梨杏が二人の間に割って出てきた。大きめの石板がその右手に握られており、横薙ぎに【悪路王】へと振り回した。  さしもの悪鬼もただの石とは言え重量物、直撃を避けようと体勢を崩しながら剣を振るった。  盛大な破壊音と共に、石板は砕け散った。 「陽一、しっかりしてぇな」 「うるせぇ、こいつだ。こいつで間違いないんだ」 「ええ、そうですよ」  殺気立つ陽一が飛び出さないように、梨杏は彼の前に立つ。 「ん? どこかで逢いましたか。おかしいですね。私は人間なぞ、逃がしはしないんですが」  剣に刃こぼれがないか、指で刃先をなぞりながら彼は首をかしげた。
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