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彼の背後、ちょうど【かくえん】が沈んでいった漆喰壁の前にそれはいた。
整った顔立ちに甘いマスクが張り付いているような印象をうける。カジュアルジャケットを羽織り、少し困ったように眉を寄せながら彼を見ていた。
「雇い主は私なんだけどねぇ」
真壁梨杏は本当に困ったと言うようにケイを見やった。
彼女は彼女で、肩をすくめるだけで彼について行こうとした。
「やれやれ、ウチの従業員たちは優秀やけど、自由なことだ」
芝居がかったように真壁は両手を広げるようにしながら嘆いていた。
それを背にしながら、彼……月野陽一は一言つぶやいた。
「眠い。俺は妖怪じゃねぇんだよ」
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