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「しらんばい」
いなり寿司を咀嚼しながら、明後日の方向へ視線を向けている。
相変わらず嘘のつけない鬼だ。
粗野だが、決して悪い妖怪ではない。というより、企みごとには向かない性格である。
「あの辺りは、茨木童子の管轄やろ? その手下のお前が知らんわけないやろ」
「しらんものはしらんばい」
京都の中心部を取り仕切る鬼夜叉組の大幹部が一人茨木童子は、ほかの幹部よりも動きが素早く行動派として知られている。その側近二人の一人がこの男だ。まぁ側近ではあるが、どちらかというと鉄砲玉に近い形ではある。
木屋町は茨木童子の管轄内であり、自分の庭を荒らされて黙っているほど優しい女ではない。
「まぁ勝手に調べるのもかまへんけど、華峰院家に出張って困られてもめんどうやろ?」
陰陽師組織である華峰院家と鬼夜叉組は数年前のある事件をきっかけに休戦協定を結んでいる。とはいえ、過去の遺恨がなくなったわけはなく、下級組員や一部幹部からは、まだ好戦的な意見が出ている。それが表面化していないのは、鬼夜叉組組長代理である鬼童丸と若頭として就任した酒呑童子の存在が大きいだろう。特に、鬼童丸は当代酒呑童子が立つまで長い間組長として君臨してきた。その信頼は未だに絶大である。
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