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結局、高輪台のイベント会場にも、品川の駅ビルにも、それらしきものは見つからなかった。
覚悟を決めて先方に連絡を入れ、今日二度目の約束を取り付けた。
午後八時すぎ。二人で何度も頭を下げ、平謝りする。
「大丈夫ですよ。大したものは入ってないし。気にしないでください」
先方の担当者は笑顔で応対してくれたが、本音はどうかは分からない。来週になったら、早々に契約を切られるかもしれない。
「週明けに、改めて伺います」
仕事用の笑みをお互いに貼り付けたまま、17階のフロアから退散した。間近で輝く東京タワーに、百瀬は視線を寄せることさえしない。
もし契約を継続できたとして、担当は百瀬というわけにはいかないだろう。頭の隅でそう考えながら、黙ったままエレベーターに乗り込み、だだっ広いエントランスへと向かった。
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